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[1]〜[4]の写真は初夏に多く見かける「ナミフタオカゲロウ」の羽化シーンです。水生昆虫の羽化方法には「水中」「水面」「陸上」の3つがあり、種属によってその方法は(基本的に)決まっています。写真のナミフタオは陸上羽化するタイプ。羽化期が近づくとニンフは写真[1]のように水中から樹枝や岩などをよじ登って身体を半分程度、大気中に出し、羽化態勢に入ります。[2]は岩にしがみついた個体の羽化が始まったところ。背部のウイングケースが縦に割れ、中から亜成虫が現れ始めます。[3]は横アングルから。かなり羽化が進んだ段階で羽翅(ウイング)がかなり現れてきました。このように斜め45度方向に“ニュ〜ッ”と突き出すようにして羽化(脱皮)が進みますが、これはカゲロウだけではなく(あるいは陸上羽化型だけではなく)、全ての水生昆虫に共通したものです。[4]はほぼ完了した段階。6本の脚を使い([3]では脚が現れていません)“足場”を確保。[3]ではまだよじれ気味だった羽翅も大きく開きました。これでテールを完全に抜くことができれば、羽化完了です。
「イマージャー」とは、この[1]から[4]までの段階(状態)にある個体をいいます。すなわち『羽化に入る直前の段階(状態)から羽化直後までの段階(状態)』にある個体の総称です。[1]は一見すると形態は通常の「ニンフ(幼虫)」に見えますが背部(ウイングケース)が通常より大きく膨らんでいます。内部にガスが溜り、そして羽翅が圧縮した状態で収まっているからです。“羽化準備完了=成熟した幼虫”ゆえ「マチュアード・ニンフ」などともいわれますが、外観こそニンフでも中身はすでに立派な亜成虫(ダン)が収まっていますし呼吸器官もすでに水中用から陸上用に転換していますので、実質的にはニンフではありません。ただし、外観が外観だけに亜成虫でもありません。ですからイマージャーとなるわけです。 |
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[5]
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[6]
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イマージャーの原義語は“EMERGE”です。「現れる」とか「(低い地位から高い地位へ)浮上する」という意味です。派生語に“EMERGENCY=緊急/突発的出来事”があるように、単に“現れる”のではなく“突発的に現れる”というニュアンスを含んでいます。確かに羽化する水生昆虫は水面に突如現れますし、また羽化自体、幼虫や蛹から亜成虫なり成虫へと成長するプロセスですから“浮上する”という意味も的を射ています。
写真[5]は水面羽化するフタスジモンカゲロウです。写真[3]と同じ段階で、静かな水面に“ニュ〜”とばかり“突如”現れます。写真[6]は水面羽化のために水面に浮いたマチュアード・ニンフです。一般的な呼称は「フローティング・ニンフ」。しかしながら上記[1]と同じ理由で実質的にはニンフではなくイマージャーです。ですから「フローティング・イマージャー」と呼んでも構いません(それに意味合いこそ違えど“地位的に浮上した”状態ゆえ、まさしくイマージャー)。このようにイマージャーには個別の呼称がいろいろあります。写真[5]や[3]、[2]など、“現れている途中の亜成虫”という点から「イマージング・ダン」とか、「トランジショナル・ダン(TRANSITIONAL=過渡的な)」などともいわれます。同名のフライ・パターンもありますので覚えておいて損はありません。 |
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[7]
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[8]
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写真[7]は身体はほぼ完全に脱皮できましたが尾部(テール)が幼虫殻に引っかかり、もがく個体です。幼虫殻(シャック:脱皮殻)を“引きずった”状態ですから「トレイリング・シャック・ダン」ともいわれますが、むろんこれもイマージャーです。かような状態に陥ると完全脱皮はまず困難。やがてはこのまま絶命。そうした点から「スティルボーン」ともいわれます。“STILL-BORN”とは「死産」なる意味。しかし、胎生生物(動物)以外に死産はありえません。ゆえに本来の意味としては不適切な用語ですが、「シャックをぶら下げた状態」をそう呼ぶことが通例化しています。
写真[8]はモンカゲロウの亜成虫です。シャックも引きずっておらず完全に水面に浮いています。しかし飛翔は困難。羽翅が縮れているからです。羽翅は殻から完全に抜け出た瞬間に体液が羽翅の翅脈(ウイングの血管のようなもの)に一気に流入して大きく広がりますが、何らかのトラブルでそのメカニズムが作動しなかったり、あるいは水しぶきでも被ると、かような状態になります。脱皮直後の羽翅はひじょうに柔らかいからです。このウイングの形状から「ツイスト・ウイング・イマージャー」どもいわれます。このウイング形状に基づく呼称はさらにあります。 |
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[9]
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[10]
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写真[9]はオオマダラカゲロウのイマージャー。「ショート・ウイング・イマージャー」といわれる状態です。水中羽化するタイプですが、水中で脱皮しコブ状の羽翅のまま水面に浮上。到達して外気に触れた時点で羽翅は大きく広がりますが、この個体はうまくいきませんでした。写真[10]は「スペント・イマージャー」。羽翅を十字状に広げています。ヒラタカゲロウやコカゲロウの一部など水中羽化する種属には、この状態になる個体が多いものです。オオマダラなどとは違い、水中ですでにウイングが紙縒り状に伸びた状態で脱皮して浮上するからです。これも外気に触れた瞬間に羽翅は開花するのが正常な状態ながら、そうならない個体が続出します。ちなみに、“SPENT”とは本来は「産卵を終えた」という意味で、スピナー(カゲロウの成虫)やアダルトにのみ使われてきた用語でしたが、現在はウイングを水平に広げた状態は一様に“スペント”と呼称。産卵を終えた成虫は絶命すると羽翅を水平に広げるからですが、この“羽翅を水平に広げる”のは多くの絶命個体に共通した点。ですからスペント・イマージャーもあれば、「スペント・ダン」なる状態もあります。(ストラグラーの項で解説) |
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[11]
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[12]
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写真[11]も[12]も羽化直後のカワゲラです。カワゲラは基本的に陸上羽化。[11]は小型のミドリカワゲラの一種で、カワゲラといえば羽翅がフラットに畳まれた状態をイメージしますが、羽化直後はウイングは佇立し先端がロール状です。ゆえに「ロール・ウイング・イマージャー」と(10年ほど前に)命名しました。[12]は中型の「オナシカワゲラ」。[11]の段階より少々時間が経った段階で羽翅はかなり佇立。さしずめ「アップライト・ウイング・イマージャー」とでもいうのでしょうが、まるでカゲロウのダンです(実際、結構誤認されます)。フラットに畳まれるのはさらに数分〜十数分後。そしてそうならないと飛翔はできません。「カワゲラや一部のカゲロウは陸上羽化だからイマージャーは必要ない」といわれ続けてきましたが、これは短絡です。羽化場所は決まって波打ち際ゆえ、波でも被れば流されますし、強風が吹けば飛ばされます。[11]も[12]も“風当たりのよい”ウイング形状ながら飛翔力はありませんから“立派に”鱒の餌となります。また、カワゲラは水面羽化する個体が結構います。遠めで見るとメイフライ・ダンが流されているように見えますが、実はカワゲラのイマージャーというケースがかなりあります。
なお、写真[1]〜[4]のフタオカゲロウやカワゲラなど陸上羽化を基本とする種属は全般的に羽化直後の飛翔力は劣りますが、写真[7]や[9]のように水面羽化や水中羽化するタイプは羽化直後から飛翔力をもちます。危険度からいうと断然陸上よりは水面。それゆえの違いでしょうが、うまくプログラミングされてますねえ。 |
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[13]
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[14]
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写真[13]は羽化のために水面に浮上したヒゲナガカワトビケラの蛹(ピューパ)です。[1]や[6]と同じく成熟したピューパであり「フローティング・カディス・ピューパ」といわれますが、もちろんこれもイマージャーです。写真の個体は前脚と中脚を動かしていますが、カディスのピューパは一様に水面を動き回ります。それゆえ「サーフェス・ランニング・ピューパ」ともいわれます。カディスは、ほとんどが水面羽化です。ですから脱皮直後の成虫(アダルト)は高い飛翔能力を持ちますが、多くは直ぐに飛び立たず、水面をかなりのスピードで動き回ります。そして岸辺の樹木などによじ登って“一休み”。そのため、他の水生昆虫とは比べものにならないほど強い脚力を持ちます。カディスは羽化時点でトラブルに陥る個体が少ないものです。ひとつにはその脚力のお陰もあります。土台が不安定な水面はトラブルの元。カゲロウなど脱皮の最終段階でひ弱な脚先が水面膜にとらわれると脱皮自体が困難になります。また、長いテールもありませんし、羽翅もかなり丈夫で形状もカゲロウのように大きく広げる必要もありません。そのため、スティルボーンの発生率はひじょうに低いものですし、ショートウイング状やツイストウイング状になるケースも極めて希です。
写真[14]はヒゲナガのシャック(脱皮殻)、それも水中視点に基づく写真です。カディスは個体数も多く、しかも羽化成功率も高い分、シャックの発生率は必然的に高くなります。そして、このシャックは立派な餌となります。釣り上げた鱒の胃袋がカディス・シャックで満杯だったというケースも珍しくありません。ご覧のように抜群の透過性を備えていますが、最近は一部で、この「シャック・フライ」が使われ、かなりの実績を上げています。カディスに限らずメイフライや、さらにはミッジまで。よろしかったらぜひ。 |
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[15]
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[16]
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写真[15]も[16]もライズを繰り返していた鱒の胃内容物です。[15]ではメイフライのツイスト・ウイング・イマージャーが4匹に、マチュアード・ニンフも確認できます。消化状態が同程度ゆえ(捕食直後)、同じ水面付近にいたものを捕食したと考えられますから、間違いなくフローティング・ニンフでしょう。シャックもひとつ“しっかり”入っています。そしてストーンフライも2匹、これまた“しっかり”入っています。どちらもイマージャーかアダルトか何ともいえませんが(羽翅の乱れ方から小型種はイマージャーでしょう)、かなりの捕食率であることは事実です。[16]はカディス・ピューパの占有率が高いことが分かります。これもむろんフローティング状態の個体、ないしは浮上途中の個体。いずれにしてもイマージャーです。ちなみにカディス・ピューパは、その状態以外が捕食されることは、極めて希です。
いずれにしても、時に飽食の対象になるのがイマージャーです。羽化期や時間帯は限られた期間・時間内に集中して起きるからですが、完全なるダンやアダルトより断然捕食率が高いのは、絶対数の違いとともに『捕食しやすい』からです。いずれも飛翔はできません。つまり逃げないわけです。そのうえ水面付近に漂いますから視認もしやすい。いわゆる『見つけやすく食べやすい』状態ゆえ捕食率も断然高くなるわけです。この状態を「バルナブル・ステージ(VALUNARABLE-STAGE)」といいますが、そして、そのバルナブル度がさらに高まるのが「ストラグラー」なる状態です 。 |