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霧のたつ早朝、静まりかえった湖に立ちこむと大型のカゲロウがフラフラと水面から飛び立っていく。静かな湖に水音が立ち、水面にいくつもの波紋ができる。羽化したカゲロウが鱒の口に飲み込まれていく。興奮を抑えながら、波紋に向かって毛鉤を打ち込む。バシャッ、出た!竿に生き物の反応が伝わり、糸がピーンと張り、竿がグィーンと弧を描く。頭の中は真っ白、どんなにこの瞬間を待ちこがれたか。そして網の中には、黄金に輝く50センチのアメマス、まさに金メダル。ヒャー、サイコー、来て良かったー!
この10年、毎年6月に北海道の阿寒湖へ釣りに出かけている。
5月に入ると準備開始。夜な夜な毛鉤を巻き、サボっていたキャスティングの練習を開始、道具を入念にチェック。一意専心、全てが6月の阿寒湖に向かって突き進む。釣りは、実際に釣りをしている時はもちろんだが、そこに行き着くまでの過程がメチャクチャ楽しい。自然が相手だから、どんなに用意周到に準備しても釣れない時は釣れない。むしろ断然釣れないが、準備をしている時は釣れることしか考えていないからだ。
フライフィッシングという釣りは、原則その時にそこの魚が食べているものに似せた毛鉤を使って魚を釣る。なぜ1ヶ月先の遠く離れた北海道の湖の鱒が食べるものが予測できるか。それは毎年同じだからだ。
阿寒湖は6月にはいるとモンカゲロウという大型のカゲロウの羽化期をむかえる。羽化したモンカゲロウは3〜4日陸上で生活し、その後産卵の為に湖面に戻り、その生涯を遂げる。阿寒湖に居着きのアメマス達は、そのカゲロウを狙って、浅場に集まって来る。(そしてそのアメマスを狙って、釣り人が集まって来る。)
開高健さんの著書の中に、『一切が関連しあい、もつれあい、からみあい、生は循環しあって、増もないが減もない。それがまざまざと肉眼で見える。輪廻は肉視できる。』という一節があるが、まさに輪廻の世界、阿寒湖で釣りをしていると輪廻を肉視できる。
年によりモンカゲロウの羽化する量やアメマスの接岸してくる量に多少の差こそあるが、この10年間この生の循環は同じだった。その変わらない中で、一喜一憂しながら毎年釣りができることが本当に幸せだと感じている。温暖化など環境の変化が叫ばれているが、どうか阿寒湖だけは変わらないで欲しい。
来年はオリンピックはないけれど、来年も必ず金メダルをとりに行かせていただきます!
※本文中引用:「珠玉」(文春文庫) 開高健 著

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(株)良品計画 店舗開発部所属。 無印良品の施設設計業務を担当、現在は海外出店に関わる業務を担当。 6歳の息子は、生まれた時から釣れない釣りにさんざん連れ廻されてきたせいか全く釣りに関心なし。 生粋の毛鉤釣師に育てあげるべく、いかにして釣りに興味をもたせるかが、目下の課題。
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