無印良品キャンプ場 外あそび
渓谷の小さな生き物たちとの再会で安らぐ。追憶の夏の山へ 阿部雄介◎フォトグラファー

No.025
 「外遊び、行くなら海か山か?」と問われれば、答えは断然「山」だ。でも、クライミングや登山に行きたいのではない。幼い頃に遊び慣れ親しんだ、清らかな水と緑と思い出とに満ちた「山」がいいのだ。
 フリーカメラマンなんて仕事をしていると、スケジュールにぽっかり穴が空いてしまうことがある。そんな時、季節が良いと、ふと山へと向かいたくなってしまう。行き先は、地図を頼りに思いつくまま。土産物屋も観光名所も、温泉も無くていいから、きれいな流れと広葉樹の林があるところを探す。
 山へのショートトリップ。それは少年時代の記憶へのトリップでもある。崖の石清水を飲みに来たミヤマカラスアゲハの孔雀のような青い羽根、湧水の底に潜む可愛らしい山椒魚、木陰に生えるコクサギの甘苦い柑橘の香り、せせらぎから聞こえるカジカガエルの涼しげな声。そういった風景の中のディテールに気持ちが飛んでゆく。見えるもの聞こえるもの、そして漂ってくる匂い−それらがいつも、夏の記憶を呼び覚まし、ノスタルジックな、でもそれでいてうれしい気持ちにさせてくれるのだ。
 こういう時ぐらいは仕事(写真)を忘れて・・・なんて考えたことは無い。とにかくいつも、カメラ機材はフル装備だ。だって、こんな美しい世界を見ていて、それを写真に収めずに、ただおとなしくいられる訳が無いから。
 暗い林道を抜け、ぱっと明るい草地が広がったとき、青空にゆったりと舞う大きな蝶の姿が見えた。アサギマダラだ。空気の中を、まるで水中にいるクラゲのようにゆったりと飛ぶ、優雅な蝶。わずかに緑を帯びた淡い青、浅葱色という色は、この蝶で知った。そんなことを思い出しつつも、僕はカメラを手にし、蝶を追いかける。きっとその姿は、捕虫網をカメラに持ち替えた、ただの「少年」となっているに違いない。そしてまた、夏の記憶は重ねられてゆく。
 山から帰る時は、ちょっともの悲しい気持ちになる。でも、また来ればいいさ、来れるさ、とも思う。街に戻って見る花壇や街路樹の緑は、常に夏の山へとつながっているのだ。そう、だって、山はいつも「そこにある」のだから。

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阿部 雄介
1969年岐阜県生まれ。東京農業大学、セツ・モードセミナー卒業。昆虫学者に本気でなろうとしていた時期を経て、アジア放浪、写真スタジオ勤務ののち、写真家三好和義氏に師事し、独立。現在は「ソトコト」を始め、雑誌を中心に活躍。海外取材や旅の仕事も多い。

Yusuke Abe's Website
http://www1.ttcn.ne.jp/~u-suke/


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