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フライロッダーの願いはいつだって、素敵な魚が釣れること。ヘンテコなループしか描けない僕にしてもそうだ。僕は夢想が好きなので、冬でも夏のイワナ釣りのことばかり考えている。
8番という大きなエルクヘアカディス(ドラッグがかかってもずんずんと浮いてくれる)をフライボックスに詰め込んで、河原へと降りていく。透明な水の中に足を踏み入れる。褐色の玉石が大小、アーティスティックに並ぶ川底をじっと見つめる。ゆらゆら、その石たちが揺らいでいる。自然のデザイン力はすごい。これこそロハス的である。自然のデザインがあって、うれしい。腰をかがめ、川面からその水をひとすくい、もらう。顔と首に当ててみる。ピシャッ。東京の湿度と熱気にうんざりしている身には、生き返る瞬間。あぁ、このところ、帰宅は終電が続いていたけど、無理してでも来てよかったな、と思う。
川を歩く。高地に飛ぶ避暑中のアキアカネたちは、僕のフライロッドの先に止まりたがる。川岸の古いコンクリートの壁からは清水が染み出し、その日陰部分にアオスジアゲハたちが集まり、ゆっくりと羽根を開閉している。フライロッダーは、ロッドを振る手をしばし休めて、そんな午前11時の情景に見やる。素敵な魚を釣るためのプロセスには、いろんなキャラクターが登場してきて、質のいいスウェーデン映画を観るのと同じか、それ以上にリラックスできる。
かわいらしい小さな川を遡っていくと、蜘蛛の巣に阻まれた。威風堂々とした造形だ。蜘蛛の巣が張りめぐらされた場所は、フライロッダーにとって最高のポイントとよく重なるのだ。落ち込み、トロ、巻き返し、倒木の脇。イワナが隠れている場所は、カゲロウやユスリカ、トビケラなどの虫たちが落ちてきやすいところ。蜘蛛もイワナと同じく待ち伏せ型のハンターだから、そのあたりの事情をよくわかっている。野生とはかくも知的だ。僕の、トビケラを模したフライはそんな蜘蛛の巣の中心に、見事に囚われの身となる。巣の真ん中にかかって揺れていたりでもすれば、自分でも感心してしまう。
「まるで本物の虫みたいだ!」
僕のホームリバーは、豪雪地帯として名高い村にある。去年の夏は、ホームリバーのイワナの当たり年だった(僕からしてみれば)。尺にはちょっと足りないけれど、よく太ったイワナがフライを流しやすい場所(つまり、教科書どおりのね)からどんどん飛び出してきた。ただ、気になるのは、たいていの場合、僕がよそ見をしているときに、フライが咥え込まれたこと。釣ったのではなく、釣れちゃった感じ・・・。今年も早く夏、来ないかな。

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| 1969年群馬県生まれ。上智大学法学部国際関係法学科卒業。雑誌「Outdoor」、「Rod
and Reel」編集部を経て、「ソトコト」副編集長。ルアー歴26年、フライ歴18年。好きなものはシングルモルト、ABUリール、リチャード・ブローティガンと井上ひさしの本、赤湯温泉の大粒納豆。 |
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